まず、簡単に上の三つは全く違うものであることを言っておきます。

ゆえに基本的にお互いを混同して使用することはできません。

理由は「目的が違うから」「目指すものが違うから」としか言えない。

まず、これを心底理解しない限り、音響っ気を扱う人としてスタートラインに立っていない。

技術云々のレベルです。

プロで言えば、たとえ金をもらっていようと「小僧の使い」レベルを脱していない。

趣味で言えば、「わかっちゃいない」「聞いていて残念」レベルです。

では、うえ三つが混ぜられない理由、目指しているものの差についてお話しします


●総論

技術とは問題を解決するための手段であり、それにより生まれる機材も問題を解決するための手段です。

問題とは「目指すものとのギャップ」を意味します。

そして、ギャップを埋めるためのアクションが「課題」です。

課題を解決するための手段の1つが「技術」であったり「技能」であったりします。

ですから、目指すものが違えば解決する技術、つまり使用機材は基本的に異なります。

これがここで説明するすべてです。


●PA機材

 PAとは「パブリックアドレス」つまり、広く周知するための設備です。

 ゆえにPA機材とは「どのような時でも」「安定的に」「大きな音で」「確実に」視聴者に伝えられることが必要です。

 これが答えです。

 つまり、一番重要な性能は

  ・対候性、耐環境性に秀でており、与えられた目標性能を安定的に発揮する耐久性があること

 です。

 目標値で言うならば

  ・正しさは50%でよいから、場に行きわたらせる音で鳴らし続ける

 これが重要です。

 大統領のスピーチを非常に素晴らしい感動的な音で鳴らして何になるでしょう?

 そんなのは二の次です。

 とにかく音をとぎらせないこと、大衆に確実に聞き取れるようにすること

 これができないのであれば、PAはクズです。いくら音が素晴らしくてもゴミです。

 

 これを示す良い機材があります。「フィードバックサプレッサー」です。

 これは、ハウリングが起こるとそれを止める動作をしますが、実際はハウリングした周波数をカットオフします。

 ということは、それがきいている時点で、その帯域は「音が鳴らなくなる」→正しい音ではないし、素晴らしい音ではない状態です。

 でも、それでよいのです。

 そんな環境のためのスピーカーが、趣味のオーディオに使えると思いますか?

 使えるわけがない。今までPAスピーカーを使っていて、自分のオーディオに使いたい、聞いていてリラックスできる、と思うような音のものなど1つもない。

 他の例を上げると、例えば、SM58、SM57がステージ用途として優れている、というのはぶん投げても壊れない「耐久性」と「使いやすい特性」です。

 消して音が無茶苦茶いいから、なわけではない。

 はっきり言っておく。

 その辺で鳴らしているPA用のヤマハやらクラシックプロやらの音はオーディオ的には「まったく使えない」。

 でもPA機材としては「使えるやつら」です。

 特に私も持ち運びに使っているクラシックプロのCSPシリーズなどひどい。箱鳴りも下品だし高音が汚くて聞いてられない。

 あれの音を聞いてオーディオ視点で評価しているやつらは耳が腐っているとしか思えない。

 でも、PAとしては使っている。だって雨降ってもいいし、ライブでけられても落としても壊れない。壊れたらすぐに代替品が頼める。

 そういうことです。

※厳密に言えばホールなのか特設なのかなどでも更に細かく変わりますが、そこは細かい話なので割愛。


●趣味のオーディオ

 かんたんのために、次は趣味のオーディオを考えてみよう

 趣味のオーディオの目的は
  ・好きな音楽を気持ちよく聞きたい
 です。

 いや俺は正しい音で鳴らすのが・・・、っていう人がいるかもしれませんがでは、そんなあなたは自分のオーディオの入力信号とエアーを計測した波形を比較して自己相関関数でどれほどあっているか、などという評価をしますか?
 つまり、そういうことです。

 趣味のオーディオとはカンジニアリングのオナニーなのです

 でもそれでいいんです。
 いくら正しく鳴らしても、気持ちよく聞けないのであればそんなものはゴミに等しいのです。
 だいたい、収録した音響技師とあなたは同じ人間なのですか?
 違うでしょう。
 あなたにはあなたの個性がある
 むしろそうでないのであれば、あなたは「没個性で代替の効く価値のない歯車のような人間」ということになります。

 なので、目標値は
 
  ・俺を満足させる(笑)
 
 です。

 客:俺
 出資者:俺
 作成者:俺

 ・・・俺のオナニーで何が悪い!ですよね。

 音だけでなく、視覚的、金額的、自尊心的、いろんな満足があります。
 どれでもいいし、どうでもいいのです。

 だから私は日頃から趣味のオーディオにおいて「見たくれは重要な性能」というのです。

 ですからゴールは人の数だけありますし、人によっては気分次第でゴールは変わります

 はっきりした好みがあればあるほど、誰かの「正しい」では満足いかなくなります

 ですから「趣味」たりえるのです。


●スタジオ機器

 これは趣味のオーディオと比較するとわかりやすく差が出ます

 スタジオでの用途は一般的に仕事です。

 個人スタジオならまだしも、一般的には「複数人が共有して使う」ものです

 また趣味と異なり「利害関係者:ステークホルダー」が存在します。

  ・演者の意向
  ・会社の意向
  ・上司の意向
  ・興行主(スポンサー)の意向
  ・スタジオの環境
  ・リスナーの好み
  ・リスナーの機材  
 これらを全部いい感じに取り入れていかなければならないのです。

 そのうえで、そういうことをするとたいていどうなっていくかというと、目指す姿は
  ・平均的な「ウケのいい音」

 で、目標は
  ・平均的な音が素直になってくれること

 に収束してきます。なんなら
  ・多数のスタジオで採用されている

 と、なお仕事はしやすわけです。
 空いているスタジオで仕事ができるから。

 万人受けもしなければならない、スタジオが変わったら音が変わるようではあまり嬉しくないですからね。 
 スペシャルな環境でいくらいい音でもMGなのです。
 

 ですからどんな機材でも、どんな聞き方をしても、車で聞いてもイヤホンで聞いてもPCのみにスピーカーで聞いてもおかしくない、皆が「いいんじゃない?(80点)」という音でなければなりません

 つまり、変なクセなどもってのほか、平均的に忠実で個性がないもの、どこのスタジオでも置けるもの、おいてあるものが求められます。

 趣味のオーディオとは全く逆なのです

 ですので、「偶然」好みが一致した、なら別ですが、趣味のオーディイオの立場で発言している人が「スタジオ機器(モニター)だから良い音がなる」と思っている、口にしている時点で「趣味としては、それってどうなの?」というレベルなのです。

 逆に「俺のスタジオのモニターアンプはマッキンの真空管アンプで、ヘッドホンはスタックスで、しかも管球をビンテージにしているから最高」・・・とか言ってたら、もう、ど素人だってことです

 お前のスタジオだけで良い音で鳴っててどうするんだと。
 聞く人はそのアンプを持っているのかと。聞く人の設備を考えて作っているのかと。

 ・・・まぁ、そんな人はアマチュアとしか言いようがないですね。(だから冒頭で明確にけなしたのです)

 プロってのは一人でプロというのはなりえなく、あくまで色んな人の中で仕事をする人なのです。
 だから「没個性の中でどのように自分の価値を出すか」がキモなのです

 また、PAではと比較するとこれも歴然です、
 メンテナンスは専用な人が行いますし、環境もコントロールできる。
 周りもプロばかりで扱いも分かっていることが前提。そもそも事故が起こりそうな運用はしないのが基本。

 なので、高価で壊れやすいが優れた特性を持つ機材、例えば精密な扱いが必要なコンデンサーマイク、希少なメイプルのギター、高いカスタムの管弦楽器などを性能優先で導入しやすいのはスタジオの特典であり、PAではできないことです。

 ・・・まぁ、狭い箱で世界に一台しかないような楽器を持ち込むような人は、よほどのアホか金持ちか粋狂か、ですよね。。。
 ふつうはしない。

と、このように、三者全くは目的=目指す姿が異なり、よって、ものづくりの方向性も異なるのです。

言われてみれば、納得できるでしょ。

なので、基本的に機材を兼ねることはできないし、しないのです。

私もそう。

オーディオ用の機材とPAでは機材は全く別です。

ただ、あるとしたら偶然一致するか、何らかの都合や事情で殊な要求に基づいているか、ということです

重要なのは「目的があって、それとのギャップがあって、それを埋めるための機材であるのだから、目的が違えば機材は基本的に異なる」という事。

一般的技術論の初歩の初歩です